売上はあるのに、利益が残らないときに観直したいこと
売上はある。仕事も入っている。お客さんもいる。それなのに、思ったほど利益が残らない。
経営の相談を受けていると、そんな話を聞くことがあります。こういうとき、多くの人はまず「もっと売上を上げなければ」と考えます。
もちろん、売上を増やす必要がある場合もあります。でも、その前に一度観てみたいことがあります。
本当に、売上の問題でしょうか。
売上が増えても、利益が残るとは限らない
売上が増えると、事業はうまくいっているように見えます。しかし、売上を増やすために商品を増やし、在庫を増やし、人を増やし、広告費を増やしていけば、忙しくなったわりに利益が残らないことがあります。
売上は増えた。でも、仕事も増えた。経費も増えた。そして、経営者だけがどんどん忙しくなっていく。
それでは、売上が増えても経営がよくなったとは言えません。
僕自身、以前の会社では年商が約2億円まで増えたことがあります。当時は、売上が増えることを事業が成長することだと思っていた部分もありました。でも、売上の大きさと、利益が残ること、経営が楽になることは別の話です。
今は、売上そのものよりも、その事業に何が残るのかを見ることの方が大切だと考えています。
原価や経費だけではなく、「何を買っているのか」を観る
利益が残らないとき、原価や固定費、経費を見直すことはもちろん必要です。
でも、僕がもう一つ観るのが、お客さんはその商品やサービスの「何」を買っているのかということです。
同じ商品でも、「どこにでもある商品のひとつ」として見られるのか、「自分にとって意味のあるもの」として見られるのかで、価格の受け取られ方は変わります。
値段を変える前に、その商品やサービスが持っている意味を観直してみる。そこから、利益の出方そのものが変わることがあります。
美容室は「髪を切るところ」なのか
以前、美容室の仕事でこんなことを考えました。
美容室を「髪を切りに行くところ」と捉えると、お客さんはカット料金を比較します。近くの店はいくらなのか、クーポンがあるのか、何分で終わるのか。比較の中心に価格が入りやすくなります。
そこで、その店の意味を、
「髪を切りに行くところ」から「髪の毛を健康できれいにするところ」へ
捉え直しました。
意味が変わると、することも変わります。カットだけではなく、シャンプーやヘッドスパ、ケアの方法、使う商品、お客さんへの提案、店で過ごす時間まで、すべてが「髪を健康できれいにする」という目的につながっていきます。
すると、お客さんが買っているものも変わります。
「カット」という作業を買うのではなく、自分の髪がきれいになっていくことにお金を払うようになる。
結果として、単価だけを無理に上げるのではなく、価値に見合った価格でも繰り返し来てもらえる店になっていきます。
古い喫茶店の「古さ」は、弱みなのか
古い喫茶店でも、同じようなことがありました。
これまで「煙草休憩をするところ」のように利用されていた店なら、提供しているものをコーヒーだけで考えると、どうしても一杯の値段で比較されます。
しかも、建物も家具も古い。新しくておしゃれなカフェと比べれば、それは弱みに見えるかもしれません。
でも、その店には長い時間が積み重なっています。
そこで、
「煙草休憩をするところ」から「歴史を体験するところ」へ
店の意味を捉え直してみる。
そうすると、古い家具も、昔から使っている器も、メニューも、店主との会話も、その場所に流れてきた時間も、すべてが価値になります。
新しくないことが弱みではなくなる。むしろ、新しい店にはつくれないものになります。
ここでも、お客さんが買うものが変わります。コーヒー一杯を買うのではなく、その場所で過ごす時間や、その店にしかない歴史を体験することにお金を払うようになります。
価格を変える前に、意味を変えてみる
値上げの相談を受けると、「いくらまでなら上げても大丈夫でしょうか」という話になりがちです。
でも僕は、100円上げるか、500円上げるかを考える前に、その価格になる理由があるかを観ます。
誰にとって価値があるのか。なぜここを選ぶのか。他ではなく、この店、この商品、この会社である理由は何なのか。
それを観ていくと、価格そのものではなく、商品名を変えた方がいいこともあります。売る相手を変えた方がいいこともある。サービスの組み合わせや、見せ方、言葉、デザイン、Webを変えた方がいい場合もあります。
価格だけを変えるのではなく、「何を買っているのか」を変える。
これが、僕が考えるブランディングのひとつです。
利益が残らない原因は、売上不足とは限らない
利益が残らない理由は、会社や店によって違います。
本来の価値より安く売っていることもあれば、商品やサービスを増やしすぎていることもあります。売上は大きいけれど、手間や時間を考えると利益の薄い仕事ばかりしているケースもあります。
誰にでも来てもらおうとして、お客さんに合わせすぎている場合もあります。
そして意外に多いのが、「売上を上げること」そのものが目的になっているケースです。
何のために事業をしているのか。それによって、どんな状態をつくりたいのか。そこが曖昧なまま数字だけを追いかけると、売上は増えても、望んでいた事業から離れていくことがあります。
足すことだけが、経営改善ではない
経営をよくしようとすると、新しい商品をつくる、広告を出す、SNSを始める、営業を強化するといった「足すこと」を考えがちです。
でも、利益を残すという意味では、減らすことも大切です。
売らなくてもいい商品、付き合わなくてもいい取引、必要以上にしているサービス、あまり意味のない広告。そうしたものを減らすことで、大切な仕事に時間やお金を使えるようになることがあります。
何かを増やす前に、いまあるものを観直す。それだけで事業が軽くなることもあります。
いまあるものの意味を編集する
僕がしているのは、まったく新しい価値をゼロからつくることばかりではありません。
むしろ、すでにそこにあるものを別の角度から観ることの方が多い。
商品、サービス、店の歴史、経営者の経験、スタッフが当たり前にやっていること。本人たちには普通に見えているものの中に、まだ言葉になっていない価値があることがあります。
美容室なら「髪を切るところ」から「髪を健康できれいにするところ」へ。喫茶店なら「煙草休憩をするところ」から「歴史を体験するところ」へ。
いまあるものを捉え直し、価値や魅力に変え、伝わる形にする。
それを僕は、「ビジネスの意味を編集する」と呼んでいます。
売上より、「何が残るか」を考える
売上を上げることが悪いわけではありません。必要なら、もちろん上げればいい。
でも、その結果として利益が残るのか。時間が残るのか。経営者や働く人に余裕が残るのか。そして、続けたいと思える事業になるのか。
僕は、そこまで含めて経営だと思っています。
だから、「どうやってもっと売るか」の前に、「何を残したいのか」を考えてみる。
売上はあるのに利益が残らないと感じたときは、数字を増やす前に、事業の意味そのものを一度観直してみてもいいかもしれません。